遺言書・遺産相続のQ&A集
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3,どれだけ相続できるのですか? (相続一般に関するQ&A:その3)


基本解説


どれだけ相続できるのか(相続分)は、被相続人が遺言によって定めることができますが、遺言がない場合に備えて一応民法が規定を置いています。

この民法によって定められた相続分を法定相続分、遺言によって定められる相続分を指定相続分といいます。

法定相続分は以下のとおりです。



配偶者

1/2

1/2
直系尊属

配偶者

1/3

2/3
兄弟姉妹

配偶者

1/4

3/4

なお、血族相続人(子・直系尊属・兄弟姉妹)が複数人いる場合は、原則として均等に分けられます。

つまり、相続人が配偶者と子2人である場合、配偶者1/2、子1/4、子1/4、となります。

なお、具体的に誰がどの財産を相続するのかについては、遺言による指定(遺産分割方法の指定)、あるいは相続人による遺産分割協議によって決められることになります。


Q&A


Q1 認知された子(非嫡出子)はどれだけ相続できるのですか?


A 認知された子(非嫡出子)の相続分は、嫡出子の1/2です。

わが国の民法は、婚姻制度の尊重という見地から、非嫡出子の相続分を嫡出子の半分としているのです。

なお、近い将来この規定は改正される可能性があるので注意が必要です。


Q2 遺産分割後に認知が認められた子はどう相続するのですか?


A 遺産分割協議をやり直すことを要求することはできず、価額のみによる支払いの請求権を有することになります。

認知の効力は出生のときに遡ってその効力を生じるので、認知された者(非嫡出子)は遺産分割協議の前から相続人であったことになります。とすれば、かかる非嫡出子が参加していない遺産分割協議は無効であるとも考えられます。

しかし、これでは既に行われた遺産分割協議の安定性を害する結果になってしまいます。

そこで民法は、一方で遺産分割それ自体は無効とはせず、他方で非嫡出子は価額によって償還請求できることとして、遺産分割協議の安定性と非嫡出子の利益のバランスを図ったのです。


Q3 養子はどれだけ相続できるのですか?


A 嫡出子と同じ相続分です。

養子縁組は嫡出子たる地位を取得させるという制度だからです。また、特別養子の場合を除いて、養親だけではなく実父母の相続についての相続権を失わないことにも注意が必要です。


Q4 片親だけが同じ兄弟姉妹はどれだけ相続できるのですか?


A 片親だけが同じ兄弟姉妹の相続分は、両親とも同じ兄弟姉妹の1/2です。

片親だけが同じ兄弟姉妹のことを半血兄弟姉妹、両親とも同じ兄弟姉妹のことを全血兄弟姉妹といいます。半血兄弟姉妹の相続分は全血兄弟姉妹の1/2となります。

なお、この半血兄弟姉妹の相続分は、その兄弟姉妹が被相続人の兄弟姉妹として相続人となる場合(被相続人に子も直系尊属もいない場合)の問題です。その兄弟姉妹が被相続人の子として相続人となる場合の問題ではないことに注意が必要です。


Q5 すでに特別の受益を得ている相続人の相続分は?


A 相続開始時の遺産総額に特別受益の額を加算し、それを法定相続分で乗じた額から特別受益の額を控除したものが、すでに特別の受益を得ている相続人の具体的な相続分となります。

このように、特別受益の額を相続時の遺産総額に加算することを、特別受益の持戻しといいます。この持戻しにより相続人間の公平を図ることになります。

ただ、持戻しをすることになる特別受益と言えるためには、「遺贈」または「婚姻もしくは養子縁組のためもしくは生計の資本としての贈与」であることが必要です。たとえば、結婚にあたっての嫁入り道具費用・持参金・支度金や、新居購入のための資金援助などがこれにあたります。

なお、大学進学費用については、私立の医科大学の入学金のように特別に多額のものでない限り特別受益とは認められないようです。親には子の資質・能力等に応じた扶養義務があると考えられるからです。

特別受益の有無やその価額について争いがあり合意できない場合には、家庭裁判所での調停・審判によることになるでしょう。


Q6 相続財産の維持・増加に寄与した相続人の相続分は?


A 相続開始時の遺産総額から寄与分の額を控除し、それを法定相続分で乗じた額に寄与分の額を加えたものが、相続財産の維持・増加に寄与した相続人の具体的な相続分となります。

このように相続財産の維持・増加に寄与した相続人にその寄与分の相続を認めることにより、相続人間の公平を図ることになります。この寄与分制度は昭和55 年の民法改正で立法化されました。

ただ、寄与分と言えるためには、「相続人自らの寄与があること」「当該寄与行為が『特別の寄与』であること」「被相続人の遺産が維持または増加したこと」が必要です。

相続人以外の者がした貢献も、その寄与が相続人の寄与と同視できるというような場合には、相続人が自己の寄与分として請求する余地はあります。たとえば、相続人の長男が相続人とともに被相続人の家業に無報酬で従事し財産の維持形成に特別な貢献をしたような場合、会社人である相続人に代わってその配偶者が家業である農業に無報酬で従事し財産の維持形成に特別な貢献をしたような場合、単身赴任中の相続人に代わって、その配偶者と長女が交代で重度の認知症となった被相続人の介護を不眠不休に近い状態で行い財産を維持した場合などには、相続人の長男、配偶者、長女の貢献を相続人自身の貢献と同視して相続人が自己の寄与分として請求できます。

『特別の寄与』とは、被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待されるような程度を超える貢献を意味します。夫婦間の協力扶助義務(民法 752条)、親族間の扶養義務・互助義務(民法877条1項)の範囲内の行為は、『特別の寄与』にはあたりません。また、必要とされる貢献の程度は、被相続人と相続人の各身分関係により違いが生じます。たとえば、同じ程度の行為であっても、被相続人の配偶者については、夫婦間の協力扶助義務の範囲内のものと認められ寄与分とは評価されないが、親に対し一般的な扶養義務ないしは互助義務を負うに過ぎない子については、特別の寄与にあたると認められるということもあります。

財産の維持とは、当該寄与行為がなかったなら被相続人の財産が減少していたところ、その行為によってそれを防止したことを意味します。これに対し、財産上の効果のない精神的な援助・協力は寄与分としては考慮されません。

寄与分が認められるか否か、どれだけ認められるかについては、相続人の合意により決せられるのが原則です。もし合意することができなければ、家庭裁判所での調停・審判ということになるでしょう。


Q7 被相続人の療養看護に従事した相続人の相続分は?


A もしその療養看護がQ6の寄与分として認められれば、相続開始時の被相続人の遺産総額から寄与分の額を控除し、それを法定相続分で乗じた額に寄与分の額を加えたものが、被相続人の療養看護に従事した相続人の相続分となります。

療養看護が『特別の寄与』(Q6参照)と認められる具体的な要件は、@療養看護の必要性、A特別の貢献、B無償性、C継続性、D専従性とされています。

なお、寄与行為の代表的な態様としては、この「療養看護型」のほかにも、
  • 家業従事型(被相続人の事業に関する労務の提供)…要件=@特別の貢献、A無償性、B継続性、C専従性
  • 金銭等出資型…要件=@特別の貢献、A無償性
  • 扶養型…要件=@扶養の必要性、A特別の貢献、B無償性、C継続性
  • 財産管理型…要件=@財産管理の必要性、A特別の貢献、B無償性、C継続性
などがあります。


Q8 被相続人の生前に相続放棄をした相続人の相続分は?


A 法定相続分どおりの相続分があります。

相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所に申述することによりなされなければなりません。あくまでも「相続の開始があったことを知ったときから」なので、相続の開始前(被相続人の生前)に行われた相続放棄は無効です。


Q9 共同相続人の一人を除外してなされた遺産分割協議は有効ですか?


A 無効です。

遺産分割協議は相続人全員でなされることが必要です。

ただし、遺産分割後に認知が認められた子がいる場合の例外についてはQ2を参照。

また、相続人に未成年者がいる場合、行方不明者がいる場合については手続に関するQ&AQ1Q2を参照。


Q10 法定相続分とは異なる遺産分割の協議は有効ですか?


A 有効です。

民法は遺産分割の指針として、「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」としています。これは単に算術的に平等に分けるのではなく、実質的に公平に分けるべし…という趣旨なのですが、何が実質的に公平なのかの判断については、相続人に丸投げしていると言っても過言ではないでしょう。

そもそも法で画一的に決めるのは無理なのです。

結局のところ、遺産分割において重要なのは、「相続人全員一致で決定する」ということです。全員一致であればどのように遺産わけしようと自由なのです。


Q11 「相続分がないことの証明書」とは何ですか?


A 相続人が、相続分以上の生前贈与(特別受益)をすでに受けているため相続する財産はない、ということを証する文書です。

「相続分がないことの証明書」は「特別受益証明書」とも言われるもので、「私は、被相続人の死亡による相続につき、生計の資本として、被相続人から相続分を超える財産の贈与を受けており、今回の相続については相続分はありません」というような内容の文書です。

この文書は、登記実務上、相続登記における登記原因証明情報として扱われていることから、遺産分割協議書なしに相続登記をするための便法として利用されることが多いようです。

実際に贈与を受けているような場合にはそれほど問題にはならないでしょうが、実際には贈与を受けていない場合には、将来的に様々なトラブルに発展する可能性も大きいので、安易に署名押印すべきではありません。

相続登記をするのなら遺産分割協議書を作成すべきです。どうしても「相続分がないことの証明書」を利用する場合には、その意味をよく理解して慎重に署名押印しましょう。


Q12 借金はどれだけ相続しなければなりませんか?


A 原則として法定相続分に従って相続することになります。

たとえば、相続人甲・乙のうち甲が全ての財産(プラス)を相続するので、借金(マイナス)も同じく甲が全て相続するという合意(遺産分割協議)をしたとしても、それのみではその合意内容をもって債権者に対抗することはできません。

つまり、債権者は乙にその法定相続分に相当する借金の支払いを請求できるのです。結果として、乙が債権者に法定相続分の借金を返済した後、返済した額を甲に請求しなければなりません。

その合意内容どおり乙が債務を負担しないこと(甲がすべての債務を負担すること)を債権者に対抗するためには、別途、その旨につき債権者の合意を得る必要があります。

相続人たちだけで勝手に「誰がどれだけの債務を負担する」ということを決めても、債権者にまでそれを強制することはできない…ということです。