幸せを呼ぶ遺言書のすすめ
そもそも遺言書とは何なのか?

1,遺言書とは?

遺言書とは何なのか?
堅苦しく言うと、

遺言者が、
自分の死後の法律関係(財産・身分など)について
一定の方式に従って定める最終的な意思表示であって、
その死後、それに則した法的効果を与える法技術。

満15歳に達した者の
独立した意思に基づかなければならない。
(制限行為能力制度の適用は廃除)

ということになります。
簡単に言うと、

15歳になると、
自分の死んだ後、自分の財産等をどう扱うか
自分の意思で決めることができますよ。

その自分が決めたことに
法的拘束力を持たせることができるのが
遺言ですよ。

ということです。

この遺言としての効力(法律上の拘束力)
が認められるのは、
法が定めた事項に限られます。

これを遺言事項と言います。

【遺言事項】
推 定相続人の廃除・取消し(民892)
相 続分の指定・指定の委託(民902)
特 別受益の持ち戻しの免除(民903)
遺 産分割の方法の指定・指定の委託(民908)
遺 産分割の禁止(民908)
共 同相続人の担保責任の指定(民914)
遺 留分減殺方法の指定(民1034)
遺 贈(民964)
財 団法人設立のための寄付行為(民41)
信 託の設定(民960、信2)
認 知(民781)
未 成年者の後見人の指定(民839)
後 見監督人の指定(民848)
遺 言執行者の指定・指定の委託(民1006)
祖 先の祭祀主宰者の指定
生 命保険金受取人の指定・変更

これらの遺言事項以外の事項
(「兄弟仲よく」「お母さんを大切に」「葬式はするな」など)
であっても、
遺言書に記載することは可能です。

遺言事項以外の事項を書いたからといって、
遺言が無効となるわけではありません。

ただし、これらの事項に法律上の法的拘束力は
認められません。

遺言事項以外の事項には
法律上の拘束力は認められませんが、
事実上非常に大きな効果を発揮することもあります。

たとえば、
遺言をした動機や家族への気持ちを表した一言が、
遺族間の争いを鎮めることも珍しくないのです。

この遺言書に記載された「遺言事項以外の事項」を
付言事項と言います。


2,遺言の方式

遺言は、
民法の定める方式に従わなければ
その効力が認められません。(民法960条)

その方式には、特別方式と普通方式とがあります。

このうち特別方式とは、
死が目前に迫っている場合や
伝染病で隔離されている場合など、
普通方式による余裕がない場合の方式で、
一般的なものではありません。
  • 臨終間際の危急時遺言(民法976条)
  • 伝染病管理者の遺言(民法977条)
  • 在船者の遺言(民法978条)
  • 船舶遭難者の遺言(民法979条)
これに対し、普通方式の遺言には、
自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言
の3つが定められています。

◎自筆証書遺言

遺言者が、
遺言書の全文・日付・氏名を自書し、
押印することによってします。(民法968条)

パソコン・ワープロでの作成、
ビデオ等による録画・録音によるものは
自筆証書遺言とはいえず向こうです。

また、代筆によるものも無効です。

◎公正証書遺言

公証役場において、
証人2人以上の立会いのもと、
遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授し、
公証人が遺言者の口述を筆記し、
これを遺言者及び証人に読み聞かせ、
遺言者と証人が承認して署名押印し、
最期に公証人が
適式な方法によって証書が作成されたことを付記して
署名押印することによってします。(民法969条)

このように作成された証書の原本は
公証役場で保管され、
遺言者には正本と謄本(コピー)が交付されます。

◎秘密証書遺言

遺言者が、
遺言書を作った上で封印し、
公証人と証人2人以上の面前で提出して、
それが自分の遺言書であること並びに氏名・住所を申述し、
公証人がこのこ申述と日付を封紙に記載して、
最期に遺言者と証人が署名押印することによってします。(民法970条)

これら3つの方式のうち、
秘密証書遺言は現実的にはほとんど使われていません。

よって、実際に遺言書を作るとなると、
「自筆証書遺言」か「公正証書遺言」の
どちらかということになるでしょう。


3,自筆要所遺言と公正証書遺言の主なメリット・デメリット

自筆証書遺言も公正証書遺言も
(さらには秘密証書遺言も特別方式による遺言も)
遺言としての法的効力に何ら差異はありません。

公正証書遺言でなければできないこともありませんし、
自筆証書遺言ではなきないこともありません。

では、両者の間にはどのような差異があるのでしょうか?

自筆証書遺言は
遺言者のみで作ることが可能です。
これに対して、公正証書遺言は
公証人及び2人以上の証人の関与が必要となり、
また様々な資料や手数料も必要となります。

自筆証書遺言は
遺言者自身が作るので
要式不備で無効となる危険性があります。
これに対して、公正証書遺言は
公証人の関与があるので
要式不備で無効となることはほとんどありません。

自筆証書遺言の作成・保管は
遺言者の責任で行わなければなりません。
これに対して、公正証書遺言は
公証人が作成し、その原本が公証役場で保管されるので
変造・隠滅等の危険はなく、
偽造の危険もほとんどありません。

自筆証書遺言は
(公正証書遺言以外の全ての遺言も同様)
遺言者の死亡後に家庭裁判所に
「検認」の申し立てをする必要があります。
これに対して、公正証書遺言は
「検認」の必要がありません。

※「検認」について
遺言書(公正証書遺言を除く)の保管者又はこれを発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その「検認」を請求 しなければなりません。また、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いの上で開封しなければならないことになっています。(民法1004条)
検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明 確にして遺言書の偽造、変造を防止するための手段です。遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。
検認手続等を怠った場合には、過料の罰則があります。(民法1005条)


4,自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらがいいのか?

結論から言えば、どちらでもいいと思います。

まず、
一口に自筆証書遺言と言っても
ピンからキリまであります。

たとえば、
「とりあえず自分で遺言らしきものを書いてハンコを押しました」
というのも自筆証書遺言なら、
「WEBサイトで調べて、
あるいは書店で遺言に関する入門書を購入し、それを読んで書きました」
というのも自筆証書遺言です。
さらには、
「遺言作成業務に詳しい弁護士や行政書士という専門家に
遺言の原案作成を依頼した上で書きました」
というのも自筆証書遺言です。

同じ自筆証書遺言と呼ばれるものであっても、
専門家に原案作成を依頼した上で書かれたものであれば、
要件不備の危険性は公正証書遺言と同じくらいない
と言っていいでしょう。

遺言書の作成・保管についても、
偽造・変造・隠滅の恐れがあるということを
予め考慮していれば、
ある程度はその危険を防止することも可能です。
たとえば、信頼できる弁護士や行政書士を
遺言執行者に選任した上で、
その保管まで依頼するという方法もあります。

自筆証書遺言の場合は
検認手続が必要となり、
これには多少の時間がかかりますが、
手続自体は、家庭裁判所に申立書を提出し
その指示に従って出廷して、
検認証明書をもらえばいいだけです。
費用も遺言書一通につき収入印紙800円と切手代だけです。

他方で、
公正証書遺言を作るために
公証人に手数料を支払わなければならないと言っても、
その手数料は通常は数万円程度で
(相続財産の価額・相続人の人数によって異なりますが…)
ビックリするほど高額というわけではありません。

また、2人以上の証人が見つからなければ
(もちろん別途費用は必要ですが)
公証人に手配してもらえます。

結局のところ、
より気軽に作れるのが自筆証書遺言で、
より安心できるのが公正証書遺言である
ということは間違いありませんが、
その気軽さや安心は
程度問題に過ぎないということです。


5,自筆証書遺言と公正証書遺言の差異よりも重要な問題

「自筆証書遺言にするか公正証書遺言にするかの差異」
よりもはるかに重要な差異があります。

それは、「遺言書を実際に作ったか作っていないかの差異」
です。

「自筆証書遺言にするか公正証書遺言にするかの間の壁」
よりも、
「現実に遺言書を作ったか作っていないかの間の壁」
の方が、はるかに高く厚いのです。

より安心な公正証書遺言にしようと決めても、
そのための資料の準備や2人以上の証人の手配、
実際に公証役場に出向くなどの手続が面倒で、
やろうやろうと思っているうちに
日にちだけがどんどん経過して、
結局、実際にはまだ遺言書を作っていません…
ということは結構よくあるパターンです。

より安全な公正証書遺言記することを決めても、
現実に作っていなければお話にも何もならないのです。

ですから、
自筆証書遺言にするか公正証書遺言にするかで悩むくらいなら、
とりあえず自筆証書遺言を現実に作っておくことを
お勧めします。
(両者の間に法的効力につき差異はありません)

その後で、
公正証書遺言にしたければ、
その自筆証書遺言の内容を基礎として
公正証書遺言を作ればいいのです。

もちろん必ず同じ内容にしなければならないわけではありません。
相続財産や相続人に関する諸事情が
変化する場合もあるでしょうし、
それらに変化がなくても
遺言者の気が変わるということもあるでしょう。

前述したとおり、
内容の矛盾する新しい遺言を作れば、
後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます。(民法1023条)

そのための遺言は方式を問いません。
前の遺言が自筆証書遺言で
後の遺言が公正証書遺言であっても
また、前の遺言が公正証書遺言で
後の遺言が自筆証書遺言であっても
後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます。

つまり、日付のあたらいい遺言が原則として有効となるのです。

ところで、
最初に弁護士や行政書士等の専門家のアドバイスを受けて
(あるいは参考書籍を何冊も買い込んで)
自筆証書遺言を作り、
後になって公証人に依頼して公正証書遺言にするとすれば、
最初の弁護士や行政書士等に支払う報酬が
(あるいは参考書籍等の代金が)
無駄になるのではないか…
と思われる方がいらっしゃるかもしれません。

しかし、
公正証書遺言を作る場合に公証人が指示してくれるのは、
主に手続き上の事項についてのみです。
(実際上は公証人によって様々ですが…)

少なくとも、遺言者の内部事情にまで深く立ち入って
その遺言内容につき詳細なアドバイスをしてくれる
というわけではありません。

つまり、
適切な内容の遺言を作るための
弁護士や行政書士のサポートの必要性は、
(あるいは参考書籍等の必要性は)
自筆証書遺言の場合であろうと
公正証書遺言の場合であろうと
それほど違いはないのです。

自筆証書遺言として作ったものを
後日、公正証書遺言に作り直すとしても、
それらは決して無駄にはならないのです。


3,なぜ人は遺言書を書くべきなのか?
5, ではいつ遺言書をかくべきなのか?
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