「適切な遺言書」、
さらに一歩進めて
「幸せを呼ぶ遺言書」を作るには
どうすればいいでしょうか?
1,「適切な遺言書」を作るためには…
遺言を作るということは、
遺族の利益のためであるとともに
遺言者自身の安心を確保するためでもあります。
とすれば、
「遺言が要式に不備のない有効なものといえるか否か」
「遺言内容に問題がないものであるか否か」
について不安が残るようでは、
その遺言の役割を十分に果たしているとはいえません。
そこで、
「適切な遺言書」を作るためには、
書籍等で遺言についてしっかり調べることが必要となります。
まず、
推定相続人・法定相続分・特別受益・寄与分・遺留分…
などの基本的な用語の意味を
正確に理解することからはじめる必要があるでしょう。
その上で、
実際に作成する差異の技術的な事項を
チェックする必要もあります。
そして、
書籍等を参考にすることにより、
自信を持って適切な遺言の内容を考えることができるという方は、
その内容を自筆証書遺言あるいは公正証書遺言の形にすれば
完了です。
しかし、
自分だけでは適切な遺言内容を考えるのが難しいと感じる方には、
弁護士や行政書士という遺言の専門家のアドバイスを受けることを
お勧めします。
この点で注意をすべきなのは、
弁護士か行政書士かということよりも、
遺言(相続)を主な業務として取り扱っているかどうか
ということです。
同じ弁護士・行政書士であっても、
遺言(相続)を主な業務として取り扱っていなければ、
適切な遺言を作るためのアドバイスは難しいものです。
また、
遺言(相続)を主な業務として取り扱っている
弁護士・行政書士の中には、
独自のノウハウを持っておられる方も大勢いらっしゃいます。
ちなみに、
報酬額に関する統計調査を見てみると、
遺言書原案作成の報酬は、
弁護士の場合は十万円から数十万円
行政書士の場合は五万円から十万円
となっているようです。
このように、
報酬額は様々ですが、
完成した遺言の法的効力に差異はありません。
よって、
弁護士に依頼するか行政書士に依頼するかは、
依頼者の好み次第…
ということになります。
2,さらに一歩進めて「幸せを呼ぶ遺言書」とするためには…
◎鮮度を保つ
遺言書には、法律上有効期限は定められていません。
たとえば、死ぬ40年前に作られて遺言書であっても、
要式を具備してさえいれば、
法的には有効な遺言書として扱われます。
しかし、相続人の立場になるとどうでしょうか?
遺言者の40年前の意思は、
死亡時には既に変化していたはずだ…
と考えても不思議ではないでしょう。
もしかしたら、
「数年前にあの土地は自分にくれると言っていた…」
とか、
「この数年アニキは親不孝を重ねていたので、
そんなに遺産をもらえるはずがない…」
などということになるかもしれません。
いくら法律上は40年前の遺言書でも有効だといっても、
相続人の間には疑心が渦巻いてしまうでしょう。
そして、その疑心を解消するための説明は、
遺言者にはもはやできないのです。
まさに「死人に口なし」です。
ただ、そうならないように
遺言を死ぬ間際になってから書く…
ということが妥当でないのは
前述(「5,ではいつ遺言書を書くべきなのか?」)
のとおりです。
そこで重要となるのが、
一旦作った遺言書の“鮮度”を保つようにする
ということです。
具体的には、
1年に一度、誕生日でも正月でもかまいませんから、
遺言書を新しく書き直すということです。
特に内容を変更する必要がないのなら、
日付だけを新しいものにして、
後はまったく同じ内容の遺言書を作ればいいのです。
これなら、1年に一度、数十分程度で可能でしょう
一年中、自分が死んだ後のことを考え続ける…というのは、
精神衛生上好ましいこととは言えませんが、
1年に一度、数十分程度を
遺言書を書き直すために使うというのは、
精神衛生上もかえって好ましいのではないでしょうか。
また、
このように遺言の“鮮度”を保つということは、
偽造遺言の防止にも役に立ちます。
前述のとおり、
遺言はその日付が新しいものが有効となります。
いくら巻紙に毛筆で書かれた自筆証書遺言であっても、
あるいは、公証役場手作った公正証書遺言であっても、
それよりも日付の新しい、
紙切れにボールペンで走り書きされて
三文判が押された自筆証書遺言が出てくれば、
原則として、それの方が有効となるのです。
これに対し、
遺言の“鮮度”が保たれていれば、
その限りにおいて、
こういう怪しい遺言書が有効となってしまうことを
ある程度防止することができます。
また、
このように1年に一度遺言書を書き直すことにしておけば、
遺言者や相続人を取り巻く環境の変化にも
臨機応変に対応しやすくなります。
遺言書を作った後に、
遺言者の財産(将来の遺産)にある程度の変化が生じれば、
それに則して遺言内容を書き直す必要があるでしょう。
遺言を作った後に、
相続人となる者の財産状況や生活環境などに変化が生じれば、
それに則して遺言内容を書き残したいと考えるかもしれません。
このとき、
1年に一度遺言書を書き直す…という習慣があれば、
その機会を利用して適切な対応がしやすいのです。
もしそのような習慣がなければ、
「書き直さなきゃ…」と思いつつ、
つい書き直さないままで放置してしまう…
となりがちなのです。
遺言はあなたの“最終の”意思表示です。
ですから、その“鮮度”は常に保つようにしておくべきです。
遺言書は、
一度作って後生大事に持っておく…
というものではないのです。
◎エンディングノート
さらに、
遺言書を作るとともに、
いわゆる「エンディングノート」を作成することもいいでしょう。
※エンディングノートとは
意識のあるうちに会いたい人・危篤状態となったときに呼んでほしい人・臨終の知らせをしてほしい人・葬儀に呼んでほしい人・ペットの世話について・痴呆等 になったときについて・戒名について・遺影写真について・遺骨について・通帳や実印の保管場所について・公共料金や保険料などの支払い(契約内容)につい て…など、生前の事情や遺言事項以外の事項について予め記述しておくものです。(要式は問いません)
遺言書に法的効力が認められるのは、
遺言者が死亡した時からです。
そして実際は、
遺言者が死亡した後に遺言書が開封された初めて、
(自筆証書遺言の場合には検認手続を経て)
その内容が明らかになります。
従って、
たとえば延命措置の要否や尊厳死についてなど、
遺言者が死亡する前(生前)の事柄に関する意思表示は
遺言以外の方法でしておかなければなりません。
そのための方法のひとつが、
エンディングノートなのです。
◎尊厳死の宣言書
これと関連して、
最近では「尊厳死の宣言書」(リビング・ウィル)も
注目されています。
※「尊厳死の宣言書」(リビング・ウィル)とは
「自分が不治末期の病状になったら、いたずらに死期を引き伸ばす延命治療は一切断り、苦痛を和らげるだけの治療を希望し、また、植物状態になったときに は、生命維持装置をはずしてほしい」という内容の宣言書。(リビング・ウィルという言葉はアメリカで最初に使われたもので、リビング(生きている)・ウィ ル(意思)、つまり、「生前発行の遺言」の意味です)
もちろん、この「尊厳死の宣言書」(リビング・ウィル)には強制力がありません。しかし、尊厳死の普及を目的としている日本尊厳死協会のアンケート結果に よると、同協会が登録・保管している「尊厳死の宣言書」を医師に示したことによる医師の尊厳死許容率は、94.0パーセント(2008年)に及んでおり、 このことからすると、医療現場でも大勢としては尊厳死を容認していることが窺えます。
尊厳死を実現するためには、
日本尊厳死協会に入会して「尊厳死の宣言書(リビング・ウィル)」
を登録・保管してもらうという方法や、
事実実験公正証書としての尊厳死宣言公正証書を
作成しておくという方法があります。
(厳密には両者で宣言できる内容に若干の差異があるようです)
◎まとめ
このように、
自分の死後、相続人間に無用な争いを生じさせず、
さらに、自分の生前の希望をも実現する…
これらのための手段を全て考慮した上で準備された総合的なもの、
それこそが「幸せを呼ぶ遺言書」です。
そして、
この総合的な「幸せを呼ぶ遺言書」を作るために
まず最初にしなければならないこと…それは、
とにかく、「基礎となる遺言書を現実に作る」ということです。
それをもとに、
より自分の希望に合った「幸せを呼ぶ遺言書」へと
総合的に発展させていくのです。
最初から完璧なものを作ろうとする必要はありません。
しかし、現実に作り出さなければ何も始まらないのです。
さあ、現実に、初めの一歩を踏み出してみましょう。
5,ではいつ遺言書を書くべきなのか?